赤いフリージア

大学院博士課程に在籍し、現代英米圏環境美学研究をしている院生のブログです。

シュヴァンクマイエルの「アリス」

シュヴァンクマイエル映画祭が、いま渋谷のシアター・イメージフォーラムで開かれている。


わたしはシュヴァンクマイエルの映画をひとつも観たことがなかったので、とりあえず「アリス」(1988)を観に行くべきだろう、と判断し、行ってきました。

この映画、はじめにアリスの(文字通り)口を借りて、「子供のための映画」「たぶんね」と自己言及してくる。
ところで子供は、じぶんが面白いと思った動作を繰り返されるとよく笑う。そしてだんだん、笑いの対象は繰り返しをしていること、そのこと自体へと移っていく(ように見える)。

この映画もまた、よく同じイメージを繰り返してくる。
まず全体の構造のなかに、繰り返しがある。アリスが別の場面に劇的に移るときに、机がかならず現れるのだ。
またもっとミクロに観たときにも、同じイメージが何度も繰り返される。カエルが何度もハエを食べる、靴下のミミズが何度も床から出てきてはまた潜る、マッドハッターが何度も茶会の場で席を移動することを要求するーーーそしてその繰り返しはラスト近く、ハートの女王が何度も首をはねるように命じる、原作の「アリス」にも通じる部分へとつながる。

わたしのなかの子供の部分は、この繰り返しによろこんで笑う。
しかし同時にわたしのなかの大人の部分は、それら繰り返されるイメージ間の微妙な差異を見分け、たのしむ。この《大人のわたしによる鑑賞》が可能だからこそ、「たぶんね」と冒頭に短く断られている。
そんな見方ができる映画だと感じました。

けっこう気に入ったので、都合がつけば他の作品も観に行きたい。